目次
はじめに
アピリッツが日々開発しているようなゲームを作る上でも、面白いストーリーというのは素晴らしい強みになります。
もし面白いストーリーが自分で考えられたら、とても楽しそうですし、役立ちそうですよね。
でも、読者のみなさんの中に多いのは、こんなタイプかなと思います。
・面白いストーリーとつまらないストーリーがある事はたくさん体験してきている
・ただどういうものが面白いストーリーなのかは、うまく説明できない
・どうすれば面白いストーリーが書けるのかは、もっとよく分からない。
実は自分はアピリッツにプランナーとして入社する前、ライトノベルの小説家として活動しているキャリアがありました。
今回はその経験も活かして、上記のようなタイプの方々を主な対象に、
自分が思う「面白いストーリーの考え方」について話していきたいと思います。
今回のテーマはこちらです。
「いかにして夢中になれるストーリーを構築していくか」
これを、主にエンターテイメントのストーリーを対象にして書いていきます。
夢中になれるストーリーに必要なもの
夢中になれるストーリーとはどういうストーリーでしょうか?
これについては実に色々な考え方があるのですが、自分は一つの答えとして以下を信頼しています。
夢中になれるストーリー:「主人公の間違いが正される事を通じて、人生の隠された性質(テーマ)が体感できる物語」
これが、物語の書き手が最初に目指すべき地平だと、自分は考えています。
もちろん、他にも読み手を夢中にさせるのを加速させていく要素は存在します。
たとえば物語に「謎」や「驚き」といった要素を加えていく事(情報のコントロール)で、読者をより熱中させていく事ができます。
また物語から得られる感情が、大きくアップダウンのカーブを描いている事(感情のコントロール)も、読者をのめり込ませる力を発揮します。
ですが、これら情報のコントロールや感情のコントロールは、実は一番本質的な面白さではないと自分は考えています。
では、物語を読んで一番本質的な面白さを感じる瞬間とは何なのか。
それは「カタルシス」を感じた瞬間です。
カタルシスとは、「精神の浄化作用」の事であり、心の中に貯まっていた鬱積した感情が、物語を見る事によって解放され、それによって強い快感を得る事を指します。
このカタルシスを感じさせる事が出来たら、ストーリーとしては合格点が与えられるといっていいでしょう。
このカタルシスを感じさせるための一つの型となるのが、先ほどの「主人公の間違いが正される事を通じて、人生の隠された性質(テーマ)が体感できる物語」という表現です。
特に重要なのがクライマックスです。
上記の型におけるクライマックスでは、自分の間違いに気づいた主人公が、間違いによって起こっていた問題を乗り越えるため、自分の力の限りを尽くします。
その際に主人公の感情が爆発し、全力を超える全力を尽くして、ついに何かを乗り越える。その瞬間、観客は強いカタルシスを感じる事が出来るのです。
なぜカタルシスを感じるのかを説明します。
ここで主人公が抱いていた間違いというのは、多くの読み手にとっても心当たりがある間違いが、書き手によって選ばれている事が多いです。
そんな、読み手にとっても仇敵である、あるいは仇敵であった間違いに、主人公が最後にはちゃんと気づいて、何かの問題を乗り越える。
そんな姿を見ると、観客は人生の隠された性質が体感でき、それが自分にとっても関係がある間違いだからこそ、観客自身の精神も浄化されるのです。
これこそ、上記の型の物語がカタルシスを感じる理由です。
確かに、情報のコントロール、感情のコントロールを行う事で、物語の面白さをさらに増す事はできます。
ですが、あくまでゴールは観客にカタルシスを感じさせる事。
そう考えた方が、いい物語に仕上がる可能性は高いと自分は感じています。
具体的なストーリー構築手順
さて、では具体的にどうすればストーリーが書いていくのでしょうか。
ここでは、以下のような手法を採用していきます。
1.ログライン集め・選択
2.ログラインを膨らませてあらすじに・テーマ決め
3.キャラクター設定・世界設定を簡潔に考える
4.あらすじを膨らませてプロットに
5.キャラクター設定・世界設定をしっかりと書く
6.本文を書く
1.ログライン集め・選択
最初にやる事は、いわゆるログラインをたくさん作る事です。
ログラインというのは、物語のアイデアを、ツイッターのつぶやき程度の文字数で表現したものです。
例えば、桃太郎だったら以下のような感じです。
「川から桃とともに流れてきた桃太郎が、きびだんごで猿、鳥、犬を仲間にし、鬼を退治する物語」
こういうものをいくつもいくつも考えます。
ここでいきなり目新しい物語の種がいくつも思いつく人は、才能がある人だと思います。
ただ思いつかなくても面白いストーリーを書く事は全然可能です。
・アイデアの浮かべ方
アイデアというのはそもそも組み合わせの事です。
自分の好きな物語の要素、自分が現実で感情を動かされたものなどを、たくさん紙に書いて、その組み合わせを試して、アイデアを着想していきましょう。
それから、それらを検討していきます。
検討過程で考えるのは以下のような事です。
1.自分が強く興味を持てる事であるか、自分に密接にかかわったテーマを含んでいるかを確かめる
2.そのログラインを実際にもう少し長いあらすじに発展させてみて、可能性を見る
3.そのログラインをストーリーにする上で、何が問題になるのか、何が分からないままなのかを考える
この工程で一つ「これだ!」というログラインが決まったら、次に、それを1000文字前後のあらすじに発展させるのですが、それと並行してテーマを決めます。
2.ログラインを膨らませてあらすじに
さて、ログラインからあらすじを作りましょう。
あらすじは、起承転結を意識して作ります。起承転結にはそれぞれポイントがあります。
・起承転結のポイント
起では「主人公が間違えている事をうっすら描きつつ、主人公に目的を与える」というのを行います。
承では「主人公が目的に向かいながら間違え続ける→間違えのせいで事件が起こって、流れが変わる→主人公が現実を知り、新たな認識を得る」という流れを描きます。
転では「クライマックスに向けて読み手を驚かせつつ展開を盛り上げて、主人公が全力を出さないと勝てない壁との闘いに向かう」という形で結の準備をします。
結では「主人公が全力を出す過程で感情が盛り上がっていき、全力を超える全力を出してついに間違いを正し、観客にカタルシスを与える」という形で綺麗に終わります。
これらを、
起:200文字
承:400文字
転:200文字
結:200文字
くらいを目安に書いていきます。
さらに、この起承転結で主人公が間違いを正す過程で、観客は「今まで知らなかった人生の性質」を体感します。
それは「主人公の間違いが間違いであるという事の自己発見」とも言い換えられます。
ここで描かれている人生の性質を、今回は「テーマ」と定義します。
このテーマを、自分の考えた話に合った形で発見してあげましょう。
3.キャラクター設定・世界設定を簡潔に考える
ここで、キャラクターや世界の設定を本格的に考え始めます。これを考えると、しばしば前の段階のあらすじ・テーマが変わったりしますが、全く問題ありません。
クリエイティブな仕事というのは、ガチガチに順番に作っていくものではなく、フィードバックを受けて行ったり来たりしながら進んでいく方が、よりクオリティが高いものに仕上がりやすいからです。
キャラクターの設定、世界の設定にはそれぞれポイントがあります。
・キャラクターの設定のポイント
キャラクターは、バラバラに一人一人思いつくのではなく、メインキャラクター全員をセットで考えていく方が、物語にまとまりが出ていき、一貫してテーマ、つまり「人生の性質」を表現できます。
まず、キャラクターがストーリーでテーマに対して果たす役割を考えていきます。
理想は、それぞれのメインキャラクターが、同じテーマに対して異なるやり方でアプローチしている形です。
そして、それぞれのキャラクターに対して、何を間違えていて、どのように間違いに気づいて(あるいはどのように間違いに気づかず)、どのように変わるのかを設定していきます。
このメインキャラクターはライバルとか敵対者などと呼ばれる、主人公と対立するキャラクターを含んでいるべきです。
そしてこの敵役も、テーマを違った形で反映していたりすると、味わい深いストーリーになりやすいです。
・世界の設定のポイント
まず世界の設定の変化は、主人公の変化と対応している事が望ましいです。
ただし、単純に主人公が幸せになるから世界も幸せな雰囲気になればいいというわけではなく、主人公が死んだおかげで世界は幸せに包まれた、とかそういう形でも構いません。
また、世界設定は、「テーマをどのように描くか」という事を突き詰めていった結果生まれる形が望ましいです。
また、これを考える上では「環境、人間、技術」というフレームワークで、3つをそれぞれ組み合わせて考えていく形がいいでしょう。
例を一つ考えるとするなら、以下のような感じです。実際はそれぞれをもっと長く書き込んでいきます。
環境:氷でできた森
人間:イヌイット風の文化の魔法使いたちが少数で暮らしている
技術:氷でできた森から魔力を汲み出す装置で、熱を生み出せる
こんなセットを一欠片として、この欠片をいくつも生み出して、それらの間の関係性を構造化していきます。
いわゆるキャラクター間相関図みたいな形で、世界の欠片同士の関係性を図にするのです。
この欠片には人間が含まれるので、前の段階で考えたキャラクター設定やあらすじにも影響する事でしょう。
それらを上手くフィードバックして整えたら、次に進みます。
4.あらすじを膨らませてプロットに
あらすじを膨らませて、個々の出来事を順番に書いたプロットを書いていきます。
プロットを考える上でも、やはりポイントはあります。
・プロットのポイント
「どの出来事を取り除いても、全体が台無しになるように作る」という名言のようなものがシナリオ界にはあります。
これはつまり、重要でない出来事を極限まで省く事が大事だという話です。
また、個々の出来事がバラバラにあるのは望ましくありません。
因果関係で結ばれた出来事だけで構成していきます。
さらに、それでいて、プロットは自然な、リアルなものでないといけません。
作者の都合で有り得ない展開ばかり繰り返されるようなものは避けるべきです。
キャラクターが意志を持って自然とそう動いていくように誘導していく必要があります。
これらはかなり難しいようにも思えます。
実際難しいです。
という事で、これを目標とはしつつ、最初は自分なりに出来事を並べる所から始めるのがいいでしょう。
逆の事を言うようですが、物語は少しくらい寄り道しているくらいが、余裕があって面白かったりする場合もあります。
もちろんその寄り道にも意味があった方がいいですが。
ここでの結論としては、まずは自分の感性を信じて出来事を並べていき、それから上記の注意に従い、論理的に調整していきましょう。
自分は、ここでの並び替えを簡単に行うため、エクセルのセルに出来事を書いていくスタイルでプロットを進めたりしていました。
5.キャラクター設定・世界設定をしっかりと書く
プロットを書くと、色々キャラクター設定・世界設定に変化が出たり、詳細が決まってきたりします。そういった事柄を、どんどん自分の設定に反映させていきましょう。
6.本文を書く
ついに本文を書きます。
ここは、自分が書きたい物語がマンガなのか小説なのかゲームシナリオなのか、といった所でだいぶ書き方が変わってくる部分もあるので、
詳しくは興味があるジャンルの専門の本を探して読んでもらう形に任せたいと思います。
一つアドバイスをするとしたら、本文をある程度まとまって書いたら、必ず見直しを入れましょう。
これは極めて重要で、バランスが悪くないか、書きたい事が書けているか、内容や文章の間違いや食い違いはないかなど、無数にチェック項目があります。
何度も自分で読み直して、気づいた事をどんどん直していきましょう。
最後に
長々とハウツーのような事を書いてきましたが、正直言って、この世界は「面白いものを書いたもの勝ち」です。
いくらやり方が分かっていても書かなければ意味がないし、やり方が理解できてなくても、とりあえず書き続けていれば、だんだんいい感じに書けるようになったりします。
また、あくまで自分の感想になりますが、感覚の赴くがままに筆を走らせるのは、慣れてくるととても楽しいです。
という事で、陳腐にも思える言葉ですが、「習うより慣れろ」です。
少しでも興味があったら、上記は参考程度に、自分なりのやり方でストーリーを作ってみましょう。
一人でも多くのみなさんが、実際にストーリーを作ってみて、ストーリーを作る楽しさに目覚められるといいなと考えて、自分はこの記事を書きました。
よければ読者のみなさんも、ストーリーづくりにチャレンジしてみてはいかがでしょうか?
そして、さらにそのストーリーをゲームにしてみたいと強く思ったとき、このアピリッツの門戸をくぐってみるのも、面白いかもしれません。
ではでは、お読みいただき有難うございました。