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文章で感情を表現する
 

文章で感情を表現する

この記事はアピリッツの技術ブログ「DoRuby」から移行した記事です。情報が古い可能性がありますのでご注意ください。

株式会社アピリッツにてゲームシナリオを書いている者です。
エンジニアの方々が技術的な記事を書いている中で恐縮ですが、私はシナリオ関連の話をさせていただきます。
今回のお題は、とても初歩的な感情の表現方法です。
少しゲームシナリオ寄りのお話になります。

はじめに

皆さんは普段、何気なく「楽しいな」、「悲しい……」などと感じていると思います。
(ここで「そんなの感じたことないよ……」と思った場合はブラウザを閉じて回れ右しましょう。)
皆さんがそういった気持ちを感じるということは、物語の中で生きているキャラクターにもその感情がある、ということですね。
ですが、自分の感情をわざわざ声に出して言うものでしょうか?
パッと思いつく個人的な例になりますが、自覚した瞬間に声に出してしまうのは「痛い!」「かゆい!」くらい。
たまに「嬉しい~!」と言うこともありますが、これは相手に「いま嬉しいと思ってるぞ」ということを伝えるために”わざと”言っているので、もしかしたら本心ではあまり嬉しいと思っていないかもしれません。
少なくとも、「悲しい……」「いま怒ってます」等を口に出すことは滅多にないかと。
人間同士の対面会話であれば、表情や声のトーンでその時々の気持ちを判断することもできますが……
感情を文字のみで表すとき、どのようにすればいいのでしょうか?

行動や仕草・状況を書く

人間が何かを感じたときの行動・仕草は、ほぼ普遍的です。
よく言われているのは、「嘘をついている時に目が泳ぐ」や、「何かを考えている時に視線が上を向く」などですね。
目の動きを文章化するだけでも、感情を表せるのです。
人間の体の部位はたくさんありますから、これらを活用した特徴的な仕草を地の文に入れるだけで、そのキャラクターが今何を思っているのか、スマートに表現できます。

……といっても、過剰に地の文だらけのお話というのは、よほど文章が上手でない限り、冗長になってしまい面白みに欠けてしまいます。
ノベル形式のゲームシナリオの場合は尚更ですね。
むしろゲームのシナリオでは、地の文がなく会話文だけで進行するものも多いですが……
二つが混合している形式の場合、大切なのは地の文と会話文のバランスです。
両者のバランスをよく考えて、気持ちよく読める文章になるように私も日々勉強しています。
地の文をどのようにするかで物語全体の雰囲気も左右されるので、作品に合った文体になるよう心がけるのも重要です。

「怒り」の感情を例にして、文章を書いてみます。

~例~
「もういいよ……」
少年は、眉間に皺を寄せたまま俯いた。
渾身の励ましが逆効果となっていたことに狼狽える。
その反応が、更に少年の機嫌を損ねてしまったらしい。
恐る恐る肩に伸ばした手は、無慈悲にもぴしゃりと跳ね除けられた。

突貫工事の拙い文章ではありますが、少年が静かに怒っていること、もう相手と会話をしたくないと拒絶している様子を表しています。
更に、『相手に自分の気持ちを察してほしかった。けれど相手は鈍感なので狼狽しているだけであり、それに呆れてしまった』というニュアンスもなんとなく含んでいます。
控えめな子供は感情を口に出せない傾向があるので、仕草の描写で表現します。

快活で幼いキャラクターであれば、あえて感情を言葉にさせることで、幼さ・未熟さを表現できます。

~例~
「もぉ~、怒ったー!ぜったいぜーったい、許さないから!」

幼女キャラクターにありがちですね。

怒りにも様々な種類がありますから、キャラクターによって「怒鳴る」「黙る」「暴れる」など、たくさんの怒りを使い分けられます。

ゲームならではの表現方法

少しお題から逸れてしまいますが……
先ほど「ゲームでは地の文なしで会話文だけで進行するものが多い」と述べました。
通常の小説であれば、会話文だけで進行する文章は、よほど魅力的な見せ方をしていない限り、あまり推奨されません。
ですが、ゲームでは演出次第で地の文がなくとも何の違和感もなく進行させることが出来るのです。
例えば、「立ち絵」です。
キャラクターが口角を上げて目を細めている立ち絵を表示するだけで、わざわざ文字にしなくても「笑っている」ということを表現できてしまうのです。
普遍的な感情を表す表情イラストを予め数パターン用意しておけば、その分の感情表現は文字にする必要がなくなります。
地の文有りの作品の場合でも、会話の応酬のシーンではテンポを崩さないためにあえて地の文を削り、立ち絵で細かな表情の変化を見せることができます。
これは、立ち絵を使用できるゲームシナリオならではの表現方法です。

例えば、「そうなんだ」という台詞の場合
enter image description here enter image description here
この二つの表情では、「そうなんだ」というセリフに含まれる意味が全く異なってきますね。
左の表情では同意やこちらの話への興味が見て取れますが、
右の表情では疑念、または話にそれほど興味がない……といった様子になる、といった感じです。
これを応用することで、例えば”口では納得しているけれど、本心はあまり乗り気ではないので表情が暗い”などの描写を簡単に示すことができます。
ゲームならではの表現方法に、もう一つ「選択肢」がありますが、これ以上脱線するわけにもいかないので、またの機会にお話ししたいと思います。

キャラクターごとの感情

感情というのは十人十色なので、そのキャラクターの個性によって抱く感情は変わります。
ですが、物語を書いている私は一人しかいないので、私が表現し得る感情には限界がありますね。
では、どうやってその様々なキャラクターの感情を表現すればいいのでしょうか?

自分自身とは全く違う常識や価値観、信念を持つキャラクターを表現する時に、経験、知識、想像力が生きてくるのだと思っています。
ここでいう経験とは、今までの人生の中で出会ってきたバリエーション豊かな人々のこと。
よく「人間観察」などと言いますが、まさしくそれですね。
自分の身の回りにいる人々が、意外なことに創作のヒントになったりすることがあります。

次に、知識とは、数多ある作品に触れて新たに出会ったキャラクターや世界などのことです。
幼いころから自由帳に自分の世界を書きなぐっていた人などであれば分かるかと思いますが、幼稚園生~小学生の頃に考えたキャラクターなどは、経験も知識もないまま作ったキャラクターなので、悪く言ってしまえばお粗末なものですね。
小学校高学年~中学生あたりになると、自由帳の中のキャラクターに悪魔の角やら天使の羽やらが生えてくる頃合いかと思います。色々な作品を見て、知識を得たからこそ生み出せたキャラクターですね。

そして、想像力とは、いかにして「自分ではない誰か」を想像し、その者の心を想像することが出来るのか・自分が経験したことのない空想の世界をどこまで広げられるのか、という力です。
例えば、善良な一般人A(……?)である私は、猟奇的なキャラクターを物語に出す時、どのような人物にさせるか非常に迷います。
このキャラクターにとって何が快楽であり、何が嫌悪の対象なのか……普段はどういった生活をしているのか、などをイメージします。
更に、とある一つの事象を前にした時、そのキャラクターはいったいどのような反応をするのか……とにかく、とことん考えます。
考えても考えても分からない場合がほとんどなので、ここでテンプレート化された「猟奇的なヤツ」を参考にします。
色々な作品に、たくさんいますよね。
その後、自己流のアレンジを加えて、個性あふれるキャラクターになればそれで良いのです。
そういった意味では、想像力は、経験と知識を積み重ねた先にあるのかもしれません。

終わりに

私自身はキャラクターに感情移入をして書くタイプなので、想像力がとても重要です。
文章を書く人の中にも色々なタイプの人がいると思いますので、より良く表現できる方法を模索していきましょう。

オススメの書籍

感情類語辞典
アンジェラ・アッカーマン、ベッカ・パグリッシ 著 / 滝本杏奈 訳
発売日:2015年12月25日
http://filmart.co.jp/books/playbook_tech/emotion-thesaurus/

この記事を最後まで読んでいる人の中には既にご存知の方もいらっしゃるでしょうが、シナリオを書く際に非常に役立つ一冊です。
感情に付随する仕草や感覚、サインなどが多く掲載されています。
「○○の感情を表したいけど、いつも同じような表現になってしまう……」という悩みがある方は、是非どうぞ。

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