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「エーテル」のルーツを辿る

この記事はアピリッツの技術ブログ「DoRuby」から移行した記事です。情報が古い可能性がありますのでご注意ください。

ファンタジー作品の中にたびたび姿を現す「エーテル」という物質。今回は現実世界での「エーテル」の歴史を遡ってみたいと思います。

エーテルとは

ファンタジー作品中での「エーテル」と言えば、主に魔法に関係する物質であることが多いです。
僕が出会った「エーテル」は魔法を使うためのエネルギー補充アイテムであったり、ファンタジックな事柄を説明できちゃう便利物質だったり、錬金術っぽいことに必要な物質だったりしました。
では、現実世界での「エーテル」とは一体何なのでしょうか。調べてみると次の3つほどが該当しました

現実世界のエーテルとは・・・
①:有機化合物を分類する際の種類の一つ
 └①の分類の中の特にジエチルエーテルという物質を指す場合も
②:光を伝える媒質と考えられていた仮想の物質
③:古代ギリシャの四大元素説で説明できない第五の元素として提唱されたもの

以下で一つ一つ紹介していきたいと思います。

①有機化合物の「エーテル」

高校で化学を専攻した方は覚えがあるかもしれません。
化学での「エーテル」は構造式R-O-R’であらわされる有機化合物の総称です。酸素Oの両端にあるRとR’は炭素と水素からなるアルキル基(CH3-等)などの有機基がくっつきます。この酸素の両端に有機基(R,R’のこと)がついている結合はエーテル結合と呼ばれています。
この「エーテル」に分類される有機化合物の中でも、特にジエチルエーテルのことをエーテルと呼称することもあります。
ジエチルエーテルは水には溶けないような、油のようなものを溶かしてくれるため、溶媒としての使用や、燃料としての利用もされています。また過去にはお酒の代用として飲用されていたことがあるようで、飲むとお酒と同じような酩酊を味わえたそうです。(ある意味で魔法の飲み物だったのかも知れません。)

②光を伝える「エーテル」

17世紀~19世紀ごろの科学者たちは、光が波の性質を持っていることを、光の屈折や干渉などの現象から知っていました。
ここで、地球上での波を考えると、水の波であれば水そのもの、音の波であれば空気を振動させる、のように全て何かを媒介にして「波」という現象を起こしています。
そこで当時の科学者は、光が波であれば、それを媒介するものがこの空間にあるはずだと考えていました。その光を媒介する物質が「エーテル」です。科学者たちはおよそ200年にもわたって、この「エーテル」の存在を見つけようと様々な実験を行っていましたが、精度不足によって「エーテル」があるのかないのか分かっていませんでした。しかし、その後、マイケルソン・モーレーの実験によって高精度で「エーテル」の存在を確かめる実験が行われました。その結果は「エーテル」は存在しないというものでした。この後も「エーテル」はもっと複雑な性質を持っているから見つからなかったのだ、という意見を支持する科学者たちもいましたが、その後に、複雑な性質さえも否定する実験結果が発表され、とうとう「エーテル」は架空の存在となってしまいました。(この業績によってマイケルソンはノーベル賞を受賞しています。)

③四大元素説の「エーテル」

かつて古代ギリシャの哲学者は、この世の物質は大きく四つの元素が基盤となっていると考えていました。この四つとは火・空気・水・土と呼ばれるものであり、地球上のすべての物質はこの四つの元素に種々の性質が加わったりすることで構成されていると考えられていました。
アリストテレスもこの考えを受け継いでおり、これら四つの元素は、「プリマ・マテリア」と呼ばれる何も性質を持たない純粋な物質に対して、「熱・冷」と「湿・乾」という性質が加わわることで、先の四つの元素が構成されると考えました。
この四つの元素には固有の場所があるとされ、水・土は下へ沈み、火・空気は上へ昇ると考えられていました。
しかし、遥か天上で運動を続けている天体にはこれらの性質が当てはまらないため、天体はこれら四元素とは別の第五の元素が構成していると考えました。この第五の元素と呼ばれているものが「エーテル」です。

実は①と②のエーテルは、この第五の元素「エーテル」が命名元となっているのです。
①は揮発性の高さから天上へ昇っている様子をなぞらえて、②は天界に満ちた物質という側面から。それぞれ全く別の物質が、場所も時代も違えど「エーテル」という名称にたどり着いたのは面白いですね。

終わりに

いかがだったでしょうか。ファンタジーな物質のルーツを辿ると、スタートは夢も希望もないただの化学物質でしたが、最終的には古代ギリシャの世界設定にたどり着いてしまいました。昔の人にとってはまさに生きる世界がファンタジーだったのかもしれません。

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