目次
前回の記事では、デザイン思考の「共感」の段階においてユーザーニーズを調査する方法を紹介しました。ここで選んだ調査方法は「ユーザーインタビュー」でした。このユーザーインタビューによってユーザーの調査データが揃ったところで、デザイン思考の次のフェーズである「定義」に移ります。
第2段階、定義する。ユーザーのニーズを明確にし、問題文を作成する
今回のフェーズではユーザーのニーズと問題点を定義して、アイデアを出すフェーズで用いる問題文を作ります。この問題文は、ユーザーリサーチの結果を分析し、機会、洞察、テーマ、パターンなどを組み合わせて作るものです。今回は、インタビューで得られたデータを組み合わせてみましょう。リサーチデータからインサイトを得るにはどうすればいいでしょう? リサーチデータを合成してインサイトを得るには、様々な方法があります。以下にいくつか挙げてみました。
一般的な合成方法
- 親和図法(Affinity diagramming)
- 共感図(Empathy mapping)
- カスタマージャーニーマップ(Experience mapping)
- ペルソナ(Personas)
- ユーザーストーリー(User stories)
- シナリオ(Scenarios)
デザイン思考の手法やテクニックについての注意点
ここで注意があります。すべての合成方法が必要なわけではありません。これは、リサーチ手法やあらゆるUXの成果物についても同じことが言えます。メソッドやテクニックは、プロセスを進める上で必要なものだけを使うべきです。
ユーザーインタビューから十分な調査データを得られれば、そこでストップしてよいです。合成によって、ユーザーとそのニーズを理解するのに十分な洞察を得られたなら、そこで完了していいのです。手法やテクニックは、あくまでユーザーとそのニーズを理解するためのツールであって、必要条件ではないからです。
だからこそ、「必要」と「役に立つ」は違うという点も、ちゃんと指摘しておかなければなりません。1つや2つの方法で、次のフェーズに進めるかもしれません。でも、いろんな方法を使つかったほうが、必ず役に立ちます。調査方法が多ければ多いほど、収集されるデータの種類が増えます。合成方法が多ければ多いほど、得られるインサイトはより明確なものになります。
つまり、追加のデータは、ユーザーとそのニーズに対する全体的な理解を、より明確にするのに役立ちます。それぞれの方法が、ある切り口や視点の中で機能しているからです。
合成方法の選択
どのリサーチ手法を使うかを選んだのと同じように、ユーザーやニーズの把握に役立つ合成方法を選択する必要があります。合成方法とは、ユーザーやそのニーズに関する機会、洞察、テーマ、パターンなどの調査データを分析するためのツールです。
親和図法(Affinity diagramming)
常に役に立ちます。情報のグループ同士のつながりを作るのに役立ちます。つながりは、インサイトを拡張させます。インサイトは、問題文の作成に役立ちます。
共感図(Empathy mapping)
いろんな方法やソースから多くのデータが得られた場合に役立つちます。ユーザーの全体像を把握するのに役立ちます。

カスタマージャーニーマップ(Experience mapping)
カスタマージャーニーに複数のフェーズや、複数のプロダクトの関わりがある場合に役立ちます。カスタマージャーニーにおける機会と痛点を理解するのに役立ちます。
ペルソナ(Personas)
常に役に立ちます。ユーザーの視点に立ってアイデアを出し、考え、デザインするのを助けてくれます。ユーザーとそのニーズに焦点を当て続けることができます。
ユーザーストーリー(User stories)
常に役に立ちます。デザイナーがデザインのプロセスにおける早い段階で、ユーザーと、そのニーズと、目的を理解するのに役立ちます。最終的なストーリーは、デザイナーと開発者がデザインと開発でどこに注力すればよいのか整理するのに役立ちます。
ユーザーストーリーのフォーマット
[ペルソナ]としての立場で言うと、[理由]ができるようになるために、[目標]が欲しい。
「Stormie」ならば、ユーザーストーリーはこうなります
[作家志望者]としては、[整理整頓ではなく、書くことに集中]ができるようになるために、[自分の考えを一度にまとめておくこと]がしたい。
シナリオ(Scenarios)
重要な点が複雑であったり、話が大きい場合に役立ちます。シナリオは、特定の状況でペルソナがどのように機能するかを教えてくれます。これにより、ユーザーストーリーの文脈が手に入ります。
シナリオは、ペルソナやユーザーストーリーなどの成果物が作成された後、デザイン思考の「定義」フェーズの後半に作成されます。
シナリオとは、次のような短いストーリーのことです。
背景: ユーザー (ペルソナの詳細)
- 目標: ユーザーは、どのような目標を達成したいのか? (ペルソナ、ユーザーストーリー)
- タスク: ユーザーは目標を達成するために何をしなければならないのか?
- コンテキスト:
- Where:ユーザーは、デザインをどこで使うのか? (環境)
- When:ユーザーは、いつそのデザインを使うのか?
- What:ユーザーの目標達成を妨げるものは何なのか? (障害)
- Why:なぜユーザーはタスクを実行したいのか?
アプリ「Stormie」における「定義」のフェーズでは、まずは「テーマ」「パターン」「インサイト」のための研究データの親和図を作るところから始めました。
Stormieの親和図
親和図とは、「空間飽和・グループ化法(“space saturate and group” method)」とも呼ばれ、研究成果を集めてより深い分析を行う方法です。よくあるやり方は、付箋に1枚ずつ情報を書き、壁やボードに貼ることです。 重要な事実、経験、インタビューの引用、洞察、観察、物語……これらで壁をいっぱいにしましょう。できればチームでこれをやってみましょう。
壁がいっぱいになりましたか? 次は関連する情報をグループ分けしましょう。グループ分けをしたら、グループに名前をつけ、ランク付けをしましょう。新しい付箋にグループ名を書き、それぞれのグループの上に配置します。グループに名前をつけたら、次は優先度をつけます。「そのグループがユーザーとユーザーのニーズにとって重要なのか? 知っておいて損はないくらいのものなのか?」というふうに、ユーザーにとっての優先順位を考えるのです。
最後に、グループとアイテムを線で結びます。こうすることで、機会、テーマ、パターン、より深いインサイトを明らかにします。
すべてのあたらしい結びつきとインサイトは、問題提議に通じています。
親和図から以下のことが明らかになりました。
機会
- 総合的なライティングのベストプラクティス
- ライティングのスピードを上げるための文章構造
- アイデアを整理するためのより良い方法
テーマとパターン
- 時間がない/忙しくて書けない
- 手っ取り早くて簡単なものが必要
- ライティングの研究に多くの時間をかけている
- 整理されていない良いアイデアがたくさんある
- アイデアが、紙やオンラインなど様々な形で保存されている
- 古い考えを忘れたり、なくすすることが多い
- アイデアを一本の物語にするのに苦労したことはありませんか?
インサイト
- 作家志望の人たちは忙しい。だから自分のストーリーのアイデアを簡単に素早くメモしたい。
- 彼らには、インスピレーションを得たときに、それを記録するためのシンプルなものが必要。
- 彼らはプロの作家ではありません。だからストーリーの構造を作るのに役に立つ実例やライティングのフレームワークが必要。
- 彼らは、たいていフルタイムの仕事で忙しいので、長時間座って書く時間がない。
- 彼らの多くは、これまでに自分の本を出版したことがないので、処女作を書くのに予想以上に時間がかかっている。
- 彼らは物語を書くことよりも、物語の構造やライティングを研究することに時間をかけている。
これらのインサイトをもとに、コアユーザーを明らかにするペルソナが作成されました。
Stormieのペルソナ
ペルソナとは、ユーザーリサーチに基づいて「実際は、どんな人がユーザーであるか?」を表した架空の存在です。 デザイナーや関係者たちに、コアユーザー、そのニーズ、経験、目標を具体的に視覚化して伝えます。そして、デザイナーが潜在的な解決法を考える際に、ユーザーの心のなかに踏み込む方法を提供します。ユーザーの心のなかに踏み込み、ユーザーになりきって考えることで、真に革新的なソリューションを生み出すことができるのです。
プロダクトのあらゆる段階でペルソナを使用し、ペルソナの内容をアップデートをすることで、ユーザーのニーズに沿った設計が続けられます。
世界は常に進化し続けるエクスペリエンスのエコシステムです。だから、私達がつくるサービスやプロダクトは、現在のユーザーのニーズを理解して反映させないといけないのです。そのためには、ユーザーテスト、フィードバック、調査に基づいてペルソナを常時アップデートする必要があります。
開発段階で使用したペルソナは、プロダクトのローンチには役立ちましたが、その後も長期的に使用するには正確さに欠けます。なので、ローンチ後のユーザーからのフィードバックや、テストで得られた検証は、現在のユーザーの姿を可視化するためにペルソナに統合されるべきなのです。
第一のペルソナ:ホイットニーライター
今回のデモンストレーション「Stormie」のために、私は定義のフェーズでは2つの方法「親和図」と「ペルソナ」を選びました。実際の開発プロジェクトでは、もっと必要だったかもしれません。
次回:デザインの「問題文」とは何なのか? 作り方は?
次回は、定義フェーズの後半を取り上げます。デザインの問題文とは何なのか、どのように作成するのか、作成時の注意点などを詳しく説明します。デザインのアイデアを出し始める「創造」につながる最後の記事にご期待ください!
↓ この記事の原文はこちらです
[Series] PX, the missing link for XD: How to define user needs in Design Thinking “Define” stage (Deep user engagement, Part 5)
↓第2回その1はこちら
ディープユーザーエンゲージメントはデザインして作り出せ
↓第2回その2 はこちら
デザイン思考(UX)vs.ゲーム思考(PX)「デザイン思考のゴール」とは?
↓第2回その3 はこちら
架空のアプリ“Stormie”でデザイン思考(UX)を考える
↓第2回その4 はこちら
デザイン思考の「共感」フェーズで、ユーザーのニーズを探る方法